“バケツ”とは、会社を器に例えた比喩である。
会社の在り方、会社観は大きく変わった。法律が変わり、働き方が変わり、働く人の意識が変わり、会社と社員の関係も大きく変わった。
60代、50代の経営者ならどういう会社をつくったらよいか、大いに迷うことでしょう。心ある経営者なら社員のためによい会社にしたいと思っている。
しかし、どういう会社がよい会社なのだろう。
仕事がなく生活が苦しい地域の人々に仕事を与え、家族を含めて生活を保証する会社。社員に感謝され、業容の拡大とともに社員は定年まで会社のために一生懸命奉公する。
そんな会社と社員の関係がかつてあった。温情主義に満ちあふれ年令を重ねるとともに収入が増え、遅かれ早かれ出世し、みんな管理職扱いになった。
今、そんなノスタルジー(懐古主義)で会社経営していれば継続は難しいだろう。かつて会社はそういうものだったのだ。そして、現経営者は、かつての経営者や先輩社員からそういう「会社の在り方」を教わり、体験し今は自分が経営者の立場にいる。
しかし、今の社員は会社との一体感は希薄だし同じ会社で一生働こうとは思っていない。「会社というもの」や「働き方」がまったく違うのだ。
会社は“バケツ”のようなものだ。人が入り、人が出ていく。中身(業容)が増えれば器が大きくなり、事業が縮小すれば器を小さくする。事業もどんどん変わるし、社名が変わっても器のラベルが変わるようなものだ。
大事なことは、会社が継続していることだ。会社が続いていれば、また拡大するチャンスもある。大事なことは、調子が悪くなりそうなら早く縮小して身の丈に合った規模に調整して会社を長生きさせることだ。
好調時は、社員が事業を大きくしてくれるが、縮小は社員にはできないので経営者が決断するしかない。
温情主義の経営者は、決断を躊躇するだろう。会社は、所詮“器”なのだ。社員は、割増の退職金を受け取って次の成長が見込める会社で自分と家族のために働いたほうがよいのだ。